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資産運用ニュース |
2025.04.18 |
小川竜一 R-TRUST investors Inc. |
今回は金GOLDとは異なるお話。保険屋さんが話せない裏話。
つい最近、DEVOTION GOLD CLUBのメンバーとの個別相談で、「変額保険ってどうなんでしょうか?」という質問をいただきました。保険でありながら運用もできる、一見“お得そう”に見えるこの商品。しかし小川としては、結論から言えば変額保険は不要だと考えています。
理由はシンプル。投資はもっとシンプルでいいからです。
複雑な数字や見た目のプランに惑わされると、大切なお金が思っていた以上に育たないことがあるのです。大切なのは、運用に回す金額と、どれだけ長く・効率よく複利を働かせられるかという基本に立ち返ること。
そこで今回は、変額保険(S社)とS&P500のETFを比較しながら、なぜシンプルな投資が最善なのかをレポートにまとめてみました。
ご自身のポートフォリオ作成には大切なお話(法人も個人も一緒)です。
ぜひ最後までお付き合いください。
まず、S社の変額保険の仕組みを簡単に説明します。変額保険とは、一言でいうと「保険料の一部を資産運用に充て、その成果によって死亡保険金や解約返戻金(積立金)が変動する保険」です。保険料を支払うと、その中から一定の部分が保険会社内の「特別勘定」と呼ばれる運用用ファンドに投資されます。投資の運用実績が良ければ将来受け取れるお金も増えますが、悪ければ元本割れ(積立金が払込保険料総額を下回ること)する可能性もあります。まさに運用成績次第で受取額が変わる=変額の保険なのです。
変額保険には、終身型(一生涯保障が続く)と有期型(一定期間で満期が来る)の2種類があります。今回比較するS社の商品は「有期型の変額保険」です。例えば「○歳から△年間積み立てて満期時に解約返戻金を受け取る」といったプランです。保険期間中に契約者(被保険者)が万一死亡した場合は死亡保険金が支払われ、生存して満期を迎えれば満期保険金(積立金)が支払われます。死亡保障と資産形成の両方を兼ね備えた商品という触れ込みで、近年注目する方もいます。
🔍ポイント:特別勘定での運用
S社の変額保険では、運用専用の「特別勘定ファンド」を8種類程度用意しており、その中から運用先を選べます。たとえば国内株式型・外国株式型・債券型・バランス型などのラインナップがあり、契約者は自分の方針に沿って配分を選択します。運用部分は証券投資信託(投資信託やETF)で行われ、その成果が日々反映されて積立金額が増減します。要するに、中身は普通の投資信託やETFによる運用であり、「この保険でしか買えない特別な金融商品」があるわけではありません。
実際、S社の変額保険の特別勘定には日経平均株価に連動するETF等が含まれており、保険を通じて日経平均インデックス投資をしているようなものです。つまり運用の仕組み自体は私たちが証券会社で買える投資信託・ETFと同じで、保険という「箱」に入っているか否かの違いなのです。
一方、比較対象のS&P500 ETFについてもおさらいします。ETF(上場投資信託)とは証券取引所に上場している投資信託の一種で、株式と同じようにリアルタイムで売買できます。その中でもS&P500 ETFは、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500指数(米国株式500社の株価動向を示す指数)に連動する運用成果を目指すETFです。具体的な銘柄名で言えば、バンガード社のVOOやブラックロック社のIVV、ステートストリート社のSPYなどが有名ですね。S&P500は米国経済を牽引する企業群の集まりであり、長期的に見れば安定した成長トレンドを描いてきた指数として世界中の投資家が注目しています。
🔍ポイント:S&P500の実績
S&P500指数は1957年に現在の形(500種)になって以降、平均年率約10.7%もの上昇率を記録しています。直近10年間でも年率約10%強と好調です。さらにさかのぼると1928年からの長期平均でも年率7.5%程度のリターンが出ています。もちろん、この数字は過去の平均であって未来を保証するものではありませんが、「長期で資産を増やすエンジン」としてS&P500が極めて強力であったことは事実です。銀行預金(金利0.0X%)や日本国債などと比べると桁違いのリターンであり、まさに米国株式市場の成長力を享受できる投資先と言えます。
S&P500 ETFを使った積立運用とは、例えば証券会社の積立サービス等で毎月一定額をコツコツとS&P500連動の商品に投資していくことです。いわば「自分で少額ずつ米国株式市場に貯金する」イメージです。購入や管理には多少の手間はかかりますが、昨今はスマホで簡単に設定でき、自動積立も可能なため、忙しい方でも手軽に継続しやすい環境が整っています。
ここからは、変額保険とETF積立を比較するにあたって重要なポイントを順に見ていきます。それぞれ運用成果や手数料の違いが複利効果にどう影響するか、また死亡保障や流動性(自由に引き出せるか)、税制まで含めて総合的にチェックしましょう。
比較にあたって、いくつか前提条件・シナリオを設定します。
毎月の積立額
両者とも同じ金額(例えば月3万円)を積み立てるものとします。
運用期間
長期で10年・20年・30年といった節目で資産残高を比較します。変額保険側はそれが契約の経過年数(満期に近づく経過年数)、ETF側は単純な積立年数と考えてください。
運用利回りシナリオ
年率3%(控えめなケース)、6%(やや高めのケース)、そしてS&P500の実績並み(7~8%程度を想定)の3パターンを検討します。なお変額保険のパンフレット等でも例示として年率3%、6%の運用例が用いられることが多いです。
税金
比較のメインとなる資産額は税引き前(運用益に対する課税考慮なし)ベースでまず比較し、後で税制の違いを解説します。保険の運用益は満期までは非課税運用され、ETF側もNISA口座であれば非課税なので、ひとまず運用段階では税を考えず「複利がどれだけ効くか」を純粋比較します。
それでは各ポイントごとに詳しく見ていきましょう。
運用利回りが資産形成に与えるインパクトは絶大です。複利効果とは、運用で得られた利益をさらに再投資して増やすことで、雪だるま式に資産が膨らんでいく現象を指します。長期になるほど利回りの差が大きな差額となって現れます。(本来変額保険では〝運用利回り〟という言葉を用いませんが便宜上使うことにします。)
✔ 複利の威力を比較
では実際に、年3%、年6%、年7.5%といった運用利回りで30年間積み立てた場合にどれくらい差が出るのか、数字を見てみましょう。毎月3万円を30年間積立=総払込額は1,080万円になります。
そのとき最終的な積立資産がいくらになるか…
年3%で運用した場合
変額保険(保険料の一部のみ運用)の積立金が約1,389万円、ETFの場合約1,736万円になります(10年時点ではそれぞれ約335万円 vs 418万円、20年時点では約785万円 vs 981万円)。
年6%で運用した場合
変額保険では約2,339万円、ETFでは約2,924万円に成長(10年時点 約390万円 vs 487万円、20年時点 約1,088万円 vs 1,360万円)。
年7.5%(S&P500好調シナリオ)
変額保険では約3,079万円、ETFでは約3,849万円に達します(20年時点 約1,290万円 vs 1,612万円)。
以上のように、同じ利回りであれば運用部分の金額差に比例して結果も変わることが分かります。
変額保険では毎月の保険料3万円のうち全額が運用に回るわけではないため(後述の保険コスト部分を除いた約80%程度が運用投資に充当)、最終的な積立額もETFに比べ約20%少なくなっています。逆に言えば、ETFで毎月3万円フルに投資できればより大きな複利効果を得られるわけです。
加えて、もし利回り自体にも差があれば、その差は長期では雪だるま式に拡大します。例えば「変額保険の運用利回りは年3%程度にとどまったが、ETF(S&P500)は年7~8%で回せた」という場合、30年後には倍以上の差がつく計算です。これは極端な例に聞こえるかもしれませんが、実際S&P500の歴史を見ると年3%と年7%では運用成果に雲泥の差があります。複利運用とは、それだけ利回りの違いが重要なのです。
運用利回りの差にも直結するのが手数料(コスト)の問題です。投資の世界では「手数料は確定したマイナスのリターン」と言われ、長期投資では手数料の差が無視できない影響を及ぼします。では変額保険とETF、それぞれにどんなコストがかかるか見てみましょう。
🔸変額保険の主なコスト
以上を総合すると、変額保険では毎月の保険料からまず「保険会社の取り分(保障コスト)」が引かれ、「残りが投資に回され」、その投資部分から「さらに信託報酬等の費用が年率で引かれる」という二重のコスト構造になっています。保障コスト部分は実質的に毎月の掛け捨てとなり、将来の積立金には寄与しません。
🔸S&P500 ETFの主なコスト
総じて、ETFで自分で運用する場合のコストは「信託報酬(年0.0x%)+わずかな売買コスト」程度であり、変額保険のコスト構造に比べ圧倒的にシンプルかつ低コストです。特にS&P500のような指数連動型は世界的にも手数料競争が激しく、今や0.03%という驚異的な安さになっています。手数料負けしにくい点はETF運用の大きな強みです。(NISAを活用すれば非課税に近づきます)
以上のように、変額保険では毎月数千円規模のコストが差し引かれるのに対し、ETFでは年間でもごくわずかです。例えば前述のケースでは、変額保険で月5,460円が保障コストに消えていました。25年間で見ると約163.8万円が保険の保障料に使われた計算です。
一方、仮に同じ保障を別の定期保険で賄った場合、その保険料は月2,308円で済んだという試算があります。(35歳男性・25年満期1,000万円の死亡保険の例)。
つまり変額保険は純粋な保険料も2倍以上割高で、運用に回せるお金が毎月3,000円以上減っていたのです。この月3,000円の差は25年で総額90万円にもなり、運用にまわせていればさらに複利で増やせたお金です。コストに消えるか運用に回るか、この違いが長期では最終リターンの明暗を分けます。
ETF側はそもそも余計な保険料を払う必要が無いため、同じ支出額であればより多くの金額を投資に充てられるという利点があります。また信託報酬差も塵積で、例えば年率1%のコスト差が30年複利でどれほど効いてくるか想像してみてください。
たとえ利回りが市場で同じ7%でも、コストで毎年1%引かれて実質6%になる商品と、ほぼフルの7%を享受できる商品では、30年後に大きな差が付きます。手数料の低さは、裏を返せば投資家の取り分を最大化できるということです。
次に死亡保障について考えます。変額保険の大きな特徴の一つは死亡保険金がセットになっている点で、これはETF単体では得られない機能です。
🔸変額保険の死亡保障
契約時に例えば「基本保険金1,000万円」と設定すると、保険期間中に被保険者が亡くなった場合1,000万円+運用による増加部分(オプションによる)が支払われます。S社の事例ですと、Option A(積立重視タイプ)では死亡保険金は基本保険金+積立金相当額ですが、運用好調でも死亡保険金が極端に増えすぎないよう調整され、余剰は積立に回りやすくなっています。一方Option B(保障重視タイプ)では運用益があると死亡保険金額も増えていき、その代わり解約返戻金への反映は抑えられます。いずれにせよ契約時点である程度まとまった死亡保障が確保できるのは保険商品の利点です。家族がいる方や万一の備えを重視する方には安心感がありますね。
ただし、先ほど触れた通りこの死亡保障にはコストが伴います。
変額保険の場合、そのコストは保険料の中に組み込まれており、必ずしも安くありません。保険会社は死亡保障の引受リスクと事務手数料、販売手数料などを考慮して保険料を設定しているため、市販の純粋な定期保険と比べると割高になる傾向があります。実際、前述の例では同条件の定期保険より毎月2倍以上も保険料を払っていたことが分かりました。
🔸ETF運用時の死亡保障
ETFそのものには死亡保障はありません。もし積立中に投資者が亡くなった場合、残されたETF資産は遺族が相続する形になります(証券口座の資産として相続手続きを経て受け取る)。これはこれで遺産として有用ですが、市場価値分しか残らないため、例えば積立開始後すぐに不幸があった場合などは十分な金額が蓄えられていない可能性があります。
そこで、ETFで資産運用する場合でも必要に応じて別途生命保険に加入するというアプローチが考えられます。実は、変額保険に高い保険料を払うよりも、安い掛け捨ての定期保険で保障を確保し、残りを投資に回した方が効率的と指摘する専門家も多い(保険屋さんは必死に抵抗しますが笑)のが実情です。
例えばAさんは月3万円まで投資に回せるお金があるとします。このうち数千円でシンプルな死亡保険(例えば10年間1,000万円保障など)に加入し、残り2万数千円をS&P500 ETF積立に充てるわけです。こうすれば保障も資産運用も欲張れる上に、保険一体型の商品よりコストを抑えられます。実際の比較でも、変額保険より3,000円多く運用に回せて25年後に90万円もの差が出るという試算がありました。
要するに、死亡保障は必要だが高くつくというのが変額保険のジレンマです。
女性の中には「子どものために一定の保障は確保したいけれど、同時に自分の老後資金も運用で増やしたい」という方も多いでしょう。その場合、保障と運用を一緒にするか分けるかで悩まれると思います。変額保険は保障と運用のセット商品ですが、セットゆえに便利な反面コスト高になりがちです。(しかし、最終的にはどちらか一方しか享受できませんのでご注意ください。)
一方、ETF+定期保険という自分で組み合わせる方法なら、それぞれを安く良いとこ取りできます。ただし管理は自分で行う必要がありますし、保険と運用を別々に契約・管理する手間はかかります。このあたりは「おまかせパック」か「自分でカスタマイズ」かの違いで、まさにコース料理をそのまま頼むか、好きな料理をアラカルトで選ぶかにも例えられるでしょう。
運用の自由度という点でも、両者には大きな違いがあります。
🔸変額保険の運用自由度
契約時に選択した特別勘定の配分は、契約後も一定の範囲でスイッチング(変更)が可能です。多くの保険会社では年に数回まで無料で特別勘定の乗り換えができるルールがあります。例えば、当初は株式型100%で運用していたけど途中で一部を債券型にシフトするといった調整はできます。しかし選択肢自体が保険会社の用意した範囲内に限られる点は押さえておきましょう。S社の例では8種類のファンドからの選択です。
これは裏を返せば「自分ではそれ以外の投資先には変えられない」ということです。
例えば「やっぱり金(ゴールド)にも投資したい」と思っても、そのメニューが無ければできません。S&P500に連動するファンドがメニューに無ければ(多くは外国株式型や世界株式型という形で組み込まれていると思いますが)直接その指数に100%投資、といったこともできません。運用先ラインナップは保険会社が厳選したものではありますが、自由度は限定的です。また保険商品ゆえに途中解約するとペナルティ(解約控除)が発生する場合があり、気軽に資金を出し入れするといった融通も効きません。
🔸ETF運用の自由度
ETFで自身が運用する場合、投資先の選択肢は基本的に自由です。今回はS&P500 ETFを例にしていますが、必要に応じて他のETFや個別株、債券、リート、不動産クラウドファンディング等々、世の中の様々な投資商品にアクセスできます。マーケット環境やライフステージの変化に合わせて、自分の裁量でポートフォリオを組み替えることができます。また資金の出し入れの自由度も高く、急に現金が必要になればETFを一部売却して数日で現金化できます。毎月の積立額も、収入状況に応じて増減したり一時ストップしたりとフレキシブルに対応できます。こうした柔軟性の高さは、自分で直接運用することのメリットです。
ただし自由度が高い分、誘惑や判断ミスのリスクもあります。
投資初心者にとっては選択肢が多すぎて迷ったり、市場の暴落時に怖くなって売却してしまったりという心理的ハードルもあるでしょう。その点、変額保険は半強制的に毎月積み立てる仕組みで途中でやめにくいため、「解約しづらいからこそ続けられる」という皮肉なメリットを感じる方もいるようです。いわば資産形成の仕組み化にはなっているわけですね。しかしこれは裏を返せば自由度を奪われているとも言えます。(ただしETFでもNISAの積立投資枠を活用したりなど仕組み化の対策は可能です。)
あなたがどこまで自分で運用をコントロールしたいかによって、この点の評価は変わるでしょう。
満期時や中途解約時にどうなるかも重要です。特に長期間の契約になる変額保険では、途中でお金が必要になった場合どうするか、満期まで待った場合に何を受け取れるのかを理解しておく必要があります。
🔸変額保険の満期・解約返戻金
有期型の変額保険では、契約期間満了時に満期保険金が支払われます。それは基本的にその時点の積立金額(=特別勘定の評価額)です。運用が好調で積立金が増えていれば満期保険金も増え、運用が振るわなければ元本割れして受取額が払込総額より減る可能性もあります(最低保証はありません)。一方、途中解約した場合はその時点の積立金相当額が解約返戻金として戻ってきます。ただし契約後10年未満など早期の解約には解約控除といって手数料が差し引かれます。解約控除の金額は契約経過年数や保険金額によって計算され、一般に契約からの年数が浅いほど多く取られます(徐々に減少し10年以上経てば0になる、等の設計が多いです)。つまり、変額保険は満期まで続ける前提の商品のため、途中で資金が必要になって解約するとペナルティで目減りする恐れがあるのです。
また満期・解約時には税金の扱いもポイントです(詳細は後述しますが、満期保険金や解約返戻金の利益部分は「一時所得」として課税対象になり得ます)。保険会社からは受取時に税金は引かれず一時所得として自分で申告する形なので、手取りとしては一旦満額受け取れますが、後で納税義務が発生する場合があります。
🔸ETF運用資産の満期・引き出し
ETF積立には「満期」はありません。必要なときに必要な分だけ売却して現金化することになります。よって資産の受け取りタイミングや方法は自由です。例えば老後の生活資金に充てるなら、60歳以降に少しずつ取り崩して年金代わりに使うこともできますし、一括で売却して大きな買い物資金にすることもできます。流動性(現金化のしやすさ)は極めて高いので、ライフイベントに合わせて計画を柔軟に変更できます。
ただし、ETF資産を売却して利益が出ている場合は売却益に対して20.315%(所得税+住民税)の譲渡益課税がかかります。こちらは証券会社が源泉徴収しますので、売却時に自動で差し引かれ、受取額は税引後の金額になります。また、運用中に受け取る配当金にも約20%の税金が課されます。もっとも、後述するようにNISAなどの非課税制度を利用すればETFの運用益・配当益に税金はかからなくできます。
🔸流動性と運用継続
変額保険は基本的に満期まで資金を固定することで計画的な資産形成を図る商品ですが、これは裏を返せば途中での現金ニーズに応えにくいということです。教育資金や住宅資金など、大きな支出が見込まれるタイミングがある方は、そこに間に合わず解約してしまうと不利になるリスクがあります。一方ETFでの積立はいつでもやめられますし一部引き出しも自在なので、人生の局面に応じた柔軟な資金計画が立てやすいです。「長期投資」とはいえ人生100年、何が起こるかわかりません。ロックされて困るか、それとも強制力があった方が続けやすいかは人それぞれですが、この違いも認識しておきましょう。
それでは、これまでの要素を踏まえて実際に資産がどのように増えていくかをシミュレーションしてみます。先ほど概算した数値を図表で視覚的に確認しましょう。ここでは年率7.5%(S&P500の長期平均に近い利回り)で30年間、毎月3万円を積み立てたケースを例に、変額保険(運用部分のみ)とS&P500 ETFの積立残高推移を比較します。
グラフを見ると、スタート直後はそれほど差がありませんが、20年、30年と経つにつれてオレンジのETF曲線が明らかに上に位置しているのが分かります。30年時点でETF側は約3,849万円、保険側は約3,079万円となっており、その差は約770万円にもなります。これは毎月の積立額(元本)の差が積み重なったことと、複利で運用益にも差が出たことが原因です。
もちろん、このシミュレーションはあくまで一定の利回りがずっと続く単純化したモデルですが、「長期ではコストの差・利回りの差がこれだけ大きな違いを生む」という点はご理解いただけたかと思います。運用期間10年程度ではそこまで顕著でなくても、20年、30年と経つと雪だるまの大きさが変わってくるイメージです。
「でも変額保険でS&P500と同じくらいの利回りのファンドを選べば結果も同じでは?」と思う方もいるでしょう。
確かに、特別勘定で仮にS&P500に連動する投資信託を選択できれば、市場利回りそのものは同じになります。しかし前述のように変額保険は毎月の保険コスト分だけ運用に回せるお金が少ないため、どう頑張ってもETFに直接全額投資するケースには追いつけません。(保険コストは、保険屋さんのコミッション、保険会社へのコミッションという表現も可能ですね。)
将来のことは誰にも分かりませんが、長期の資産形成で重要なのは「どれだけ多くの資金を・どれだけ高い利回りで・どれだけ長く運用できるか」に尽きます。変額保険 vs ETFの場合、運用に回せる資金量と期待利回りの両面でETFに軍配が上がりやすいことが、このシミュレーションからもうかがえます。
最後に税金面での違いを確認しましょう。税金は資産形成の隠れたコストでもありますので、有利不利を比較する上で見逃せません。
🔸変額保険の税制
変額保険には大きく3つの税メリットがあります。
一方で死亡保険金を受け取った場合、契約形態によって相続税や所得税の対象になりますが、多くの場合、相続税の非課税枠が適用されます。死亡保険金は法定相続人1人あたり500万円まで非課税扱いとなる特例があります。例えば法定相続人が配偶者と子2人なら、500万円×3=1,500万円までの死亡保険金は相続税がかかりません。これも生命保険の大きなメリットで、生前にまとまった資産を残す手段として活用される理由です(相続税対策として富裕層が生命保険を利用するのはこのためです)。
以上まとめると、変額保険は加入中の節税(控除)、運用中の非課税運用、受取時の優遇課税と、税金面で厚遇されています。ただしこれらはあくまで保険としての扱いを受けるための条件付きです。例えば契約者と受取人が親族でない場合は一時所得でなく贈与税がかかるなどケースによって異なります。一般的な家族内契約であれば上記のようなメリットを享受できるでしょう。
🔸ETF運用の税制
ETFや投資信託の運用益に対しては、日本では原則20.315%の分離課税が適用されます(所得税15.315%+住民税5%)。内訳として、配当金に対して都度課税、売却益に対して売却時に課税、となります。長期積立の場合、含み益が出ていても売却しない限り課税されませんので、運用中の値上がり益は非課税で複利運用できます。しかし配当金だけは受取のたび課税(自動再投資しても課税)される点が、保険やNISAと異なる部分です。もっともS&P500の配当利回りは近年1.5%程度ですので、大きな税負担ではありませんが、複利効果を高めるには配当再投資も無税で行えた方が有利ではあります。
そこで活用したいのがNISA(少額投資非課税制度)です。NISA口座で買い付けたETFや投資信託は運用益・配当益が非課税になります。2024年からNISA制度が拡充され、生涯1,800万円まで非課税投資枠が利用可能になりました。長期でコツコツ積立する方には追い風の制度です。
仮に毎年積立額がNISA枠内(年間360万円まで)で収まるなら、ETF運用でも運用中・受取時とも完全非課税となり、保険の税メリットと遜色ない扱いを享受できます。さらに保険料控除のような毎年の所得控除はありませんが、昨今はiDeCo(個人型年金)など掛金全額所得控除+運用益非課税の制度もあります。
要するに、税の優遇という観点でも必ずしも保険だけが有利とは言えない状況になってきています。保険には保険の、投資には投資の、それぞれ使える節税策がありますので、うまく組み合わせることも可能です。
変額保険は税制優遇があるとはいえ、そのために払うコスト(高めの保険料や解約しづらさ)と見合うかどうかがポイントです。一方ETF運用も、NISA等を使えば相当の税優遇を受けられます。例えば「変額保険で運用益200万円を得て一時所得課税されるケース」と「NISAで同額運用益を得て非課税」のケースでは、後者の方が税はゼロなので有利です。また死亡時の保険金非課税枠500万円×法定相続人というのも、実は普通に現金や有価証券を相続した場合の基礎控除枠(3,000万円+600万円×法定相続人)の中でカバーできる場合も多く、必ずしも保険で用意しなければいけないとは限りません。とはいえ、税制優遇込みで設計された商品である変額保険に魅力を感じる方もいるでしょう。その場合は「税金で得する分以上にコストを払い過ぎていないか?」をチェックすることが大切です。
長い比較となりましたが、最後にポイントを整理してみます。
🏁 リターン面
コスト控除後の実質利回りが同じであれば、変額保険もETFも理論上増え方は同じです。しかし変額保険は保険料の一部しか運用に回せないため、全額運用できるETF積立に比べて不利になりがちです。また、歴史的実績を見るとS&P500の力強い成長が際立つため、その恩恵を余すところなく享受できるETF投資は有力です。変額保険でも優秀なファンドを選べば近い成果は得られるかもしれませんが、トータルでETFに軍配が上がりやすいと考えられます。
💰 コスト面
「見えないコスト」が多い変額保険に対し、ETFは非常に低コストで透明性があります。長期では手数料の差がリターンの差に直結しますので、コスト意識の高い投資家ほどETFを評価するでしょう。保障と運用をセットにする利便性に対して余計なコストを払うか、手間を惜しまず低コストを追求するか、この価値観によって選択が分かれます。ただし保険の場合は、多額のコミッションを支払ってでも専属担当が欲しいという方にはコスト以上のメリットはあるかもしれません。(証券会社は担当制にはなりません)
🛡 保障面
「もしもの備え」を重視するなら変額保険は魅力的です。ただし保障は別途加入でも賄えるため、安価な保険で代替可能です。独身で扶養家族がいない方や、すでに十分な保障がある方にとっては、変額保険の死亡保障は必須ではないかもしれません。
🔄 柔軟性
自由に運用設計したい人にはETF、お任せで半強制的に積立したい人には保険が向いています。途中で資金を動かす可能性が高いならETFの方が安心でしょう。逆に自分で資金を動かすと使ってしまいそう…という方は、保険で強制積立するのも一つの方法です。しかしNISAの積立投資のように一度設定してしまえば強制的に積立できる方法もありますのでETFの方が有利と言えるでしょう。
🏦 税金
変額保険は税優遇があり一見有利ですが、NISA等を活用すればETFも非課税運用可能です。生命保険料控除による節税は毎年わずかですし、最終的な手取りに大差を生む要素ではありません。税制だけを理由に選ぶのは避け、あくまで運用商品としての実力やコストを重視するのがおすすめです。
「資産形成を最優先」という観点では、やはりS&P500 ETFによる長期積立に分があると言えます。低コストで高い市場リターンを狙え、必要に応じて柔軟に対応できるからです。一方で「保障と運用をワンセットで手軽に」というニーズや、「自分で投資する自信がないのでコストがかかっても保険会社(担当)に任せたい」という方には変額保険にも一定の価値があります。特に投資初心者の中には「難しいことは苦手だけど将来のためにお金を増やしたい」という思いから、変額保険のような商品に魅力を感じる方もいるでしょう。その場合、商品内容を十分理解した上で活用することが大切です。
本レポートで述べた比較ポイントを踏まえて、ぜひご自身の方針に合った方法を選んでください。
法人契約でも個人契約でもしっかり考えて動きましょう。大事なのは長期で継続することと自分が納得して運用を続けられることです。保険であれETFであれ、一度決めたら腰を据えてコツコツ積み立てることが成功のカギですから。
最後に、運用も保障も気になる欲張りなあなたへ。
「保険+投資」のハイブリッド戦略も検討してみてはいかがでしょうか?
例えば必要最低限の手頃な定期保険で家族の安心を確保しつつ、余力資金は金GOLDやS&P500などで増やすという組み合わせです。これなら両方のメリットを享受できます。DEVOTION GOLD CLUBのメンバーは、一つの選択肢に縛られず柔軟に工夫しています。ぜひ皆さんも自分らしい資産形成プランを描いてみてくださいね。